男の夢の果て/映画「レスラー」

ベネチア映画祭グランプリ。

整形し、プロボクサーに転向した、俳優ミッキー・ロークがこの映画で再起し、

自身の姿を反映した凄まじい演技で、数々の賞に輝いた作品です。



子供の時にレスラーにあこがれて、プロレスの世界の門を叩き、

若さと肉体で、ホールを満員にする程の人気者になり、栄光の座に着く。

青年から壮年へ、家庭も顧みず、ひたすら仲間とプロレスショーに明け暮れ、

気が付いたら、体も心もボロボロになっていた、初老のレスラー。

引退して、スーパーの食品売り場の店員になっても、

客のわがままや元ファンに振り回されると、簡単に切れてしまう。

好きな女との逢瀬や娘との再会で、ひと時のなぐさみを望むけれど、

不器用な男は、自分で勝手にその夢を壊してしまう。

こうして居場所のなくなった主人公は、傷んだ心臓を抱え、再びリングに向かう。

最後、コーナーから死のダイブを掛ける男のストップモーションで、映画は終わる。

男のロマンの果てを、カッコイイとみるか、くだらないと思うか。

微妙な所ですが、私としては、こういうヒューマンな終わり方は物足りない。

ずるくても惨めでも、地を這って生き延びようとする姿を見せた方が、今の映画だと思う。



たまたま映画を見た後、かつての学生運動のリーダーたちの話を朝日新聞夕刊で読みました。

「反逆の時を生きて」と題する、秋田明大山本義隆氏らの青春時代と、その後の人生。

車整備工となり、中国人と再婚、60過ぎて5歳の子供の父親である人。

過去は語らず、理系の予備校講師であり、傑作論文「磁力と重力の発見」を著した人。

紆余曲折した生き方を自分で選び、平凡な市民の中に埋没している。

団塊世代の象徴だった人達が、地道に老後を生きようとする姿は、とても感動的でした。