聞く喜びから読む感動へ/映画「愛を読むひと」

普段私たちは、文字を読み書き出来ることを、大したことと思っていない。

けれども本当は、文盲であった場合、その人の運命が狂ってしまう程、

残酷な事であることを、思い知らされる映画です。



少年マイケルは、偶然出会った年上女性ハンナと恋に落ちる。

セックスの前に朗読をせがむハンナに、マイケルは次々と本を読む。

しかし、つかの間の逢い引きは、彼女の失踪であっけなく終わってしまう。

数年後、法律を学ぶ大学生マイケルは、授業で傍聴したナチ裁判被告席にハンナの姿を見る。

ナチの看守だった彼女は、なぜか不利な証言を認め、無期懲役刑を言い渡されるが、

その時初めて彼は、彼女の不幸な秘密を理解することになる。

私たちの社会では、誰もが自分を主張し防御する文字が、使える事を前提にして生きている。

しかし、文字が理解できない非識学者の場合、自分がどういう状況に置かれているかが解らない。

犯罪者など、そういう運命の中に多くのマイノリティがいるのだけれど、私たちも気付くことは少ない。

後半、中年になったマイケルは、獄中のハンナにテープを送り続け、再び朗読者となる。

年老いたハンナは、テープを聴くことで次第に文字を理解し、本を読むことを学びはじめる。

けれどもそれは、マイケルとの心の交流の終わりでもある。

刑が終わりに近づいた彼女は、罪の重さを意識し償うため、

彼の差し出す好意に背を向けた、ある決心をする。

無知であったけれど、誰よりも崇高な生き方を選んだひとりの女性を、

アカデミー賞主演女優賞に輝くケイト・ウィンスレットが、感動的に演じています。

一方、性も愛も人生も、ハンナに導かれ成長していくマイケルに、ふたりの男優が扮します。

ベテラン男優レイフ・ファインズもいいですが、少年時代の新人デヴィッド・クロスが注目です。

久々に文芸的香りを持った映画に出会い、おおいに堪能しました。

(画像は「愛を読むひと」HPより、ダウンロードしました。)