豊穣の音の海/ハノーファーフィル・マーラー「交響曲9番」
当日のグランシップは、2/3ほどの席が埋まっていたでしょうか。
これがベートーベンの第九番なら、聴衆の層も数もだいぶ違っていたでしょう。
この時、この場所に居合わせた人達は、生涯忘れられない感動的な音楽体験をしたことと思います。
まず、壇上のオーケストラの数にビックリ!
正面最上段に、コントラバスが8人も勢揃いして、なんと弦の群だけで約60人。
6台のティンパニー、ダブルのハープ以下、ドラ、鉄琴、トライアングルまで。
総勢100人の編成は、視覚的にも圧倒されました。
第一楽章 弦のざわめきから、ため息のような旋律に引き継がれ、早くもマーラーの世界。
第二楽章 持ち直して、若干明るく、華やかな農民舞曲が心地よい。
第三楽章 これもマーラー特有の、分裂症的な落ち着きのない曲調。
第四楽章 アダージョ。この世の別れを何度も何度も惜しむように、音の波が繰り返される。
最後、弦の対話が余韻を持って、静かに閉じられます。
曲が終わって、うなだれるような指揮者、大植英次氏。
無音の10秒が過ぎて、彼が顔を上げた時、初めて拍手が起こった。
ああ、この世にこの音楽があり、この音楽を知ることが出来、ここで聞いている。
そういう感動で、涙腺が緩くなってしまう、瞬間でした。
もちろん、この曲、長すぎるし、まとまりも悪いような気がする。
前作、交響曲「大地の歌」の方が、完成度も高いし、私も好きだ。
オーケストラも、音の響きがマイルドにとけ込まない部分もあった。
けれども、CDで聴く気がしなくなるほど、ライブの素晴らしさを堪能した一夜。
豊穣の音の海に浸って、いつまでも全身にマーラーが鳴り響いていました。
(画像はパンフレットより借用しました。)