ウィーンの魅力を支えているもの

19世紀フランツ・ヨーゼフ1世が、城壁を取り除いて敷設したリンクシュトラーセ(環状道路)。 市電が巡る一周約5kmのその中に、世界遺産になっている旧市街があります。 学生時代、東京の皇居回りをジョギングしたことがありますが、 それが約5kmですから、ほぼ皇居の大きさと同じ面積の街ですね。


その道路沿いに、王宮、国会議事堂、ウィーン大学オペラ座など、 様々な様式の、有名な建築物が隣立していて、壮観です。 宮殿、美術館、博物館、ショップ、レストラン、ホテルなどへ向かうとき、 ちょっと頑張れば、歩いて旧市街を回ることも可能です。 また、老若男女、自転車をすっ飛ばして行きます。


こうした名所、旧跡については、事前に本やWebで調べていたので、 それほど、大きな発見や、驚きはありませんでした。 きっと、外国人が京都など見物するのと同じことでしょう。


ウィーンに慣れてくると、むしろそういう物より、 私たちが、無駄無く快適に過ごせることが、気になってきます。 つまり、観光客の行動、そして住民の生活に配慮した、街のシステムが重要になってきます。


私たちが移動手段に使う、市電、地下鉄、バスは、共通の切符で自由に乗り降り出来ます。 1日券〜8日券、定期券、そして入場料の割引があるウィーンカードなど色々。 それらを買い、駅や車内にある機械で最初にパンチ(刻印)すると、 それ以降移動の度に、切符を見せたり、通したりする必要がありません。 要するに、改札口が全くないわけです。 そのかわり、時々検札が入り、無賃乗車は厳しく罰せられるようです。 当然、人の流れが滞ることがないから、私のような短気な人間がイライラすることがありません。


地下鉄の全ての駅にはエスカレーターと、中心部にエレベーターが設けてあります。 また、ほとんどの美術館にもエレベーターがあります。 旅行前から腰を痛めていた妻は、階段を上り下りすることなく済みました。 一方ウィーンには、早朝から深夜まで営業しているカフェが、街中至る所にあります。 夏時間の今は、道路にテーブル席が並んで、涼みながら食事をしています。 店の数が多いから待つこともなく、しかもコーヒー一杯で長居するのが常識です。 日本では消えていった喫茶店文化が、今でも健在な街なのです。


「移動したいときには邪魔な物がなく、くつろぎたい時には追い立てられることがない。」 毎日快適に過ごしたいという、しごく当たり前の人間の暮らしが、ここでは守られている訳です。 交通行政のお粗末さと、えさを飲み込んでいるような貧しい外食文化の日本。 税金が快適な暮らしに還元されていない事に、何の文句も言わないおとなしい日本人。 ウィーンの魅力は、見事な世界遺産があることではなく、 毎日を豊かに暮らしたい市民の意識にあるようです。