椅子と日本人のからだ
地元静岡に、クラフトマン、デザイナーなどからなる「静岡椅子研究会」があります。
その主催で、先日「椅子と日本人のからだ」について、セミナーがありました。
講師は、「日本人の坐り方」を研究されている、武蔵野身体研究所主宰、矢田部英正氏。
氏は、近年の人間工学的姿勢理論から考案される椅子に対して、
東洋の千年を超える修行実践に裏打ちされた「坐る技術」を基にした、
日本人の椅子のあり方を研究していらっしゃいます。
日本人と椅子の関係は、決して近代になってからのものではなく、
室町時代には、南蛮貿易により椅子やベッドが渡来し、腰掛ける生活が盛んだったそうです。
中国椅子の影響を受けた、「きょくろく」という読教用の椅子も製作されています。
しかし、日本の起居様式の歴史では、椅子座より、床座の方が定着してしまっている。
それは、主に、履き物を脱いで生活する住居のあり方による、と同時に、
日本人が、禅文化の影響等で、姿勢を正す坐り方を身に付けていたからのようです。
スライドで、坐り方の姿勢、骨盤の正し方を見た後、氏の製作した椅子の紹介がありました。
骨盤を包むように添わせて、背と肘の部分を湾曲させる。
上半身を骨盤で支えるため、尻の後に空間を作る。
座面は尻がへたらなによう、左右を上部にカーブさせる。
つまり、氏が目指しているのは、
座禅のように長時間坐っていることが出来る姿勢を基本とした、椅子の開発だそうです。
矢田部氏の話。
どうやら、我々日本人にとっては、坐りやすい椅子の研究と同時に、
個々人が、長時間床に座っても疲れない「坐る技術」を、
もう一度身に付ける必要がありそうですね。
その後、主催者のご厚意で、小人数の懇親会に誘っていただきました。
フランスのクラシック椅子がとても坐りやすい椅子であること。
一世を風靡したバランスチェアが、話題にも上らなくなったこと。
茶道の世界が、為政者により、立て膝から正坐になったこと。
などなど、うち解けた雰囲気の中で、楽しい話題が飛び交いました。
なお、矢田部英正氏の書かれた本
は、姿勢の大切さを説いた、たいへん含蓄に富んだ本で、おすすめです。