ウィーン・ア・ラ・カルト「建築編」

ウィーンの有名な宮殿、教会、美術館などの建築物を取り上げてきました。 しかしこの他にも街の至る所に「ユーゲント・シュティール」と呼ばれる 19世紀末芸術が生んだ建築があり、タウンウォッチングを楽しめます。


分離派会館(ゼツェッション


分離派と呼ばれる若き芸術家の活動拠点となる建物で、キャベツの愛称のドームが有名。 正面玄関上の壁面には、 「時代にはその芸術を、芸術にはその自由を」 と彼らのスローガンが掲げられています。 今でも胸に突き刺さるようなこの言葉、私にとっての金言でもあります。 内部地階にて、クリムトフレスコ画「ベートーベンフリーズ」を見学。 がらんどうの空間に、第九の歓喜の歌が聞こえてきそうな気がするほど、迫力がありました。






シュタインホーフ教会とともに、オットー・ワーグナーが設計した尤も美しい近代建築の傑作。 教会と同様に白が基調となっており、ガラス天井から降り注ぐ神々しい光で心が洗われるよう。 待合いの机や椅子もウィーン工房の製作で、垢抜けていて実にカッコイイ。 威圧感のない空気のような空間に、いつまでも留まっていたい程、ワーグナーの世界は魅力的でした。
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さらに世紀末の代表建築を求めて、妻と街の中を行ったり来たり。 ガイドブックとハンカチを片手に、ウィーンの暑い毎日を歩き回りました。


カールスプラッツ駅舎
こちらもオットー・ワーグナー設計の童話に出てくるようなメルヘな建物。 現在は駅としては使用せず、ワーグナー展示室となっています。 こんな愛らしい駅前で待ち合わせなんて、ロマンティックですよね。


マヨリカハウス&メダイヨン・マンション
壁一杯、イタリアマヨリカ産タイルの花模様で飾ったアートマンションと 金細工メダルで壁がキラキラ輝く、城のようなマンションが隣接。 壁アートもこのくらい洗練されると、後生に残るのでしょうね。
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歩き疲れた妻が寝ている早朝は、ひとりで地下鉄を乗り継いで郊外に出かけました。 「カール・マルクス・ホフ」と「ゴミ焼却場」と「水門監視所」が見たかったから。


駅前に壁のように立っている、全長1kmにわたる労働者用集合住宅。 1つの都市のように、病院、託児所も完備している建物なんて、先見の明がありますね。


ゴミ焼却場
岡本太郎のような自由奔放な芸術家、フンデルトヴァッサー設計の市営ゴミ焼却処理場。 そのアニメの中の城のような外観に唖然、グラフィティアートの元祖なんじゃないか。 ダイオキシン除去、余熱暖房利用と、エコロジー的彼の人生哲学がここにも生きています。


カイザーバート水門監視所。
知らなければ通りすぎてしまうドナウ運河のほとりの、ワーグナー設計の小さな建物。 大理石、花崗岩、陶板でドナウの流れをデザインしてあるそうです。
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郵便局、焼却場、水門、集合住宅、駅舎など、 貴族ではなく、市民のための建築物を次々に考案していった「ユーゲント・シュティール」運動。 権威ある過去の建造物遺産に対して、NO!の旗印を上げて広がっていった世紀末建築。 しかし、100年たった今、それらは少しの違和感もなく調和している。 クラシックとモダンが競い合い、共存しているのウィーンの街の建物の魅力。 それは、まさに「百聞は一見にしかず」の一言でしか言い表わせないものです。