もう一つの教育/映画「17歳の肖像」
殺人もなく、暴力もなく、性描写もなく・・・。
久しぶりに、まじめに、良識ある映画に出会えました。
映画「この自由な世界」にも共通する、イギリス映画の大人の味。
「17歳の肖像」は、世界共通のテーマ「教育(エデュケーション)」に真正面から取り組んだ名作です。
名門大学進学を目指すジェニーは、フランスの教養文化に憧れる聡明な16歳。
しかし、現実は厳格で自由のない家庭と高校の、退屈な毎日の繰り返し。
そこに現れた魅力的な年上の男性。そして彼が教えてくれるきらびやかな社交界。
彼女にとってそれは、学校の授業とは異なる、心ときめく“エデュケーション”の始まりだった。
誰でもが、懐かしくほろ苦く思い出す17才の頃。
1960年代が舞台だから、同じような進学校にいた私たちにも、
勉強以外の、自分だけの学びの場がそれぞれあったと思う。
私の場合は「映画」。
高校生の分際で、ヌーベルバーグだの、イギリスの怒れる若者たちだの,
ただただ流行を追って、難解な映画を見まくっていました。
ジェニーの場合は、夜遊び、週末旅行、17才の誕生日のパリなど、
大人の世界の表側だけをみて舞い上がり、大人気分に浸っていく。
そして、無意味な学園生活や教師を批判し、そこを飛び出そうとするが、
次第に楽しい世界の裏の部分に気付き、傷ついて、現実の自分に戻ってゆく。
この映画が優れているのは、「そこから真の教育が始まる」という所。
終盤、軽蔑の的でしかなかった、地味で魅力のない担任女教師の生活を知ることになる。
そこからジェニーは、その分相応なまともな暮らし方が、真の大人の世界であることに気付いていく。
「先生、もう一度学ばせてください。」
「その言葉を待っていたの。」
復学を懇願する彼女に、何の非難もせず無言でいた女教師が言った答え。
教育のもつ意味を、ストレートに思い起こさせる名場面。
その後の彼女は、地に足の付いた大学生活を送り、名ジャーナリストになっていく。
原作者リン・バーバーの実体験を、女性監督ロネ・シェルフィクが繊細に描いて、
見る人の心に共感を呼び起こす、まっとうな青春ドラマでした。