「悪人」は誰なのか/映画「悪人」

傑作小説吉田修一著「悪人」を映画化し、

モントリオール国際映画祭で深津絵里が主演女優賞を獲得した、話題の映画「悪人」。

ずっと前から読みたかった本なので、映画はどうかなと思いつつ、鑑賞。

飽きることはなかったけれど、韓国映画のような凄みがなく、物足りなさが残った。



工事現場の肉体労働と、老祖父母の介護の毎日に明け暮れる主人公祐一。

出会い系サイトで会った好きな芳野に軽蔑され、故意で彼女を殺してしう。

その後知り合った光代と癒やされた関係になり、二人は逃走を続ける・・・。

衰退してゆく日本の地方都市で、何の夢も持たず悶々と日々を暮らす若者たち。

彼らの鬱積する、満たされぬエゴイズムが頭をもたげ、衝突して起きた殺人事件。

ブランド品のように、人を見栄と欲望の対象物としか見ることが出来ない佳乃と圭吾。

性への願望が肥大して、遊び相手の女の心変わりに、キレてしまう祐一。

満たされぬ心を埋めるべく、殺人犯に逃走を促す光代。

「悪人」とはいったい誰なのか?

人の痛みや悲しみに気付くことなく、己の満足のままに生きている者。

犯した罪から逃れ、その重さを知ることなく、償うことが出来ない者。

登場する4人の若者それぞれが、「悪人」としての姿を表しているはずなのだが。

事件に翻弄される、被害者佳乃の父(柄本明)と、加害者祐一の祖母(樹木希林)。

俳優の力量が圧倒的なので、その描写がずっしりと私たちの心に響く。

一方で、未熟な若者たちの行為を「悪」としてと捉えきれていないもどかしさもある。

とくに後半、逃避行から逮捕までの部分はラブストーリーのようで違和感がある。

映画はよくまとまっているけれど、長編小説のダイジェスト版のようで物足りない。

中途半端な若者への共感は、映画としての力を弱めるような気がした。