音楽で描くイランの現実/映画「ペルシャ猫を誰も知らない」

映画「酔っぱらった馬の時間」では、馬を酔わせて厳冬の地を荷運びさせる少年を。

映画「亀も空を飛ぶ」では、イラク兵にレイプされ、生まれた子供を殺してしまう少女を。

共に、少数民族クルド人の過酷な暮らしと絶望を描いて、衝撃的な映画だった。

見た後、言葉も出なかったが、妙に暖かな気持にさせられた。

彼らのたくましさと、監督のやさしいまなざしが、悲惨な現実を超える力となっている。



「馬」「亀」そして「猫」。

動物をタイトルとして使うイランの名匠「バフマン・ゴバディ監督」。

新作「ペルシャ猫を誰も知らない」が、この監督の、静岡で初めて公開される映画。

私は「馬」をNHKテレビで、「亀」は視聴覚センターの映画会でやっと見ることが出来た。

ペルシャ猫」は、イランでは禁止されている、ロックミュージックを愛する若者たちの姿を描く。

「いつだって、音楽は自由への翼なんだ。」

しかし、この国では宗教と政治の力が、若者たちの夢を打ち砕いてしまう現実。

主人公の男女のミュージシャンは亡命し、ロンドンで活躍している。

また、ゴバディ監督も、本作を最後にイランを離れた。

音楽の力が、映画の力が、権力に抗い、社会を変革し、

自由な夢をもたらすのは何時のことか。

安穏と暮らす私たちの頭を、ガンガン殴ってたたき起こす、バフマン・ゴバディ監督の映画。

この監督からは、いつも、そしてこれからも目が離せない。