自己愛に満ちた男の一日/映画「シングルマン」

正月休みに1本は映画を見よう。

今年20本以上の映画を見ることを目標に、捜した映画がこれ。

「シングルマン」は、独特の雰囲気を持った、作家の自己愛の物語でした。



その日は大学教授ジョージにとって特別の一日だった。

16年間共に暮らしたパートナーが、交通事故で亡くなってから8ヶ月。

「愛する者がいない人生に意味はあるのか?」

日に日に深くなる悲しみを自らの手で終わらせようと決意したのだ。

グッチやサンローランのディレクターの経歴を持ち、

現代のカリスマファッションデザイナーとして有名なトム・フォードの作品。

だから、映像の美しいこと。

主人公の心情を表すグレートーンが基調になっていて、

時々心が動かされる場面で僅かに色が差す、なんて凝った作りになっている。

ミース建築の象徴のようなガラズ張りの彼の家。

トラディショナルな60年代の魅力的なファッションの数々。

クラシックカーはもちろん、大学の自動販売機までオシャレなこの時代の風景。

そして、彼の愛する男たちを、選び抜かれた美形俳優が演じている。

それらを眺めているだけでも、この映画を見る価値がありそうです。

人も物も、そういうスタイリッシュに描かれた映画なのです。

だから、深い人間洞察もなく、社会との関係にも触れていません。

幸せだった過去の自分を愛し続け、

生きる望みを無くした、今の自分を哀れんでいるのです。

美しい死に方を計画し、気配りされた遺書を残し、

机の上に、最上の死に支度を用意する。

ネクタイはウインザーノットに締めて欲しい、とか。

これはもう、究極の自己陶酔映画と言うことになるのでしょうね。

私も自己愛人間のはしくれなので、解らないわけでは無いのですが、

こうまで徹底して描かれると、やっぱり何か違和感がありますね。

美を追究する人間って、結局こういう風になってしまうのでしょうか。