浅見真州氏のこと・能「道成寺」のこと・地震のこと

今週の日経新聞夕刊・裏面の人気コラム「こころの玉手箱」に、

能楽師「浅見真州」氏が登場している。



観世流能楽師・浅見真健氏の五男、東京生まれ。

世阿弥の再来といわれた能楽界の巨人、観世寿夫氏に師事。

現在、最高の能楽師だと思う。

藤田喬平氏の飾筺「道成寺」、観世寿夫先生の扇、代々木能舞台

などの記事を読んで、ますますファンになった。

もう、遅きに失したちょっと前の話になるが、

4月2日(土)東京国立能楽堂で氏の能舞台を見た。

演目は古希(70歳)を記念しての、「翁」と「道成寺」。

震災後しばらくしてだったので、開催できるか心配し問い合わせたら、

「鎮魂のための能です。天下泰平と国土安穏を祈る厳粛な空間を創ります。」

と、きっぱり言われた。



「能にして能にあらず。」といわれる儀式「翁」が一番目。

面を付ける、舞う、面を取り納める、まですべて舞台で行われる。

厳粛な中にもおおらかな、猿楽の伝統を伝える舞いと囃子が繰り広げられた。

続いて、大曲「道成寺」。

若い娘が恋した青年僧侶を追って道成寺へ。

女は蛇となって、隠れた男のいる鐘をぐるぐる巻きにし、焼き滅ぼす。

道成寺伝説を能にした名作で、人気の高い演目である。

白拍子(娘)が異様なまなざしで鐘を見つめ、近づいていくクライマックス。

小鼓とシテの掛け合いで、数十分にわたる「乱拍子」。

観客は、瞬きも忘れツバを呑む、緊張感と迫力の場面が展開する。

乱拍子が終わり、烏帽子をはね、まさに白拍子役のシテが鐘に飛び込もうとした瞬間。

グラグラ、グラグラ。

舞台の鐘を揺らす必要もなく、会場全体に微妙な横揺れが・・・。

地震だ!」

一瞬、館内はざわざわと騒然となり、客席を離れる人も。

そうしている内にも、舞台ではシテが鐘に飛び込む、と同時に鐘が落下。

・・・その内に地震は収まり、後は何事もなかったように、

整然と舞台は進行していった。

何というタイミング。

能は古典であり伝統であるけれど、まさに現代に生きている。

これほどのリアルな経験は一生ないであろう。

興奮さめやらない国立能楽堂でのハプニング。

その日、こうして妻と私は最高の舞台を堪能し、東京を後にした。