暴力と非暴力の間/映画「未来を生きる君たちへ」

今年のアカデミー賞最優秀外国映画賞受賞。 さらに、ゴールデングローブ賞最優秀外国映画賞受賞のW受賞の快挙。 映画「未来を生きる君たちへ」は誰もが納得できる、デンマーク映画の傑作です。


デンマークに住む二つの家族。 母を亡くし、祖母の住む父の生まれ故郷で暮らすことになった少年クリスチャン。 アフリカで医師として働く父と、デンマークに住む医師の母を持つ少年エリアス。 エリアスへのいじめをクリスチャンが助けたことで、2人は親しくなる。 クリスチャンは、受けた暴力は暴力で返さなければいじめられっぱなしになると、 首謀者の少年をボコボコにする。 もう一つの舞台はアフリカの難民キャンプ。 そこで働くエリアスの父アントンは、妊婦の腹を引き裂く惨殺事件に何度も遭遇する。 その内、その犯人が足を怪我し、銃で脅しながら医師に助けを求めにくる。 アントンは、医者として怪我した者を助けるのは誰でも同じだと言うが、 事件を知っている助手たちは助けることを拒む。 手下が逃げて一人になった犯人を、住民たちは寄ってたかってなぶり殺しにする。 非暴力をとなえ、殴りかかってきた男に抵抗しない平和主義者の父。 やられたらやり返すことで、いじめを防止出来ると反発する子供達。 映画は父を殴った男の車を爆発するという少年達の計画に発展する・・・。 デンマーク原題は「復讐」。 英訳タイトルは「IN A BETTER WORLD」 そして、日本語タイトルが「未来を生きる君たちへ」 このタイトルから私は、吉野源三郎の名著「君たちはどう生きるか」を思い出した。 戦前の軍国主義の時代、生き方(倫理)についてのコペル君と叔父さんとの対話。 不条理な世の中で、まっとうな考えを持つにはどうしたらいいか、を示唆した本です。 暴力、復讐、正義、赦し・・・。 誰もが突き当たる問題を、ストレートに解りやすく投げかけるこの映画。 「私たちはどう生きるか」という非常に日常的なことがテーマであり、 さらにそれを「未来を生きる君たち」に考えて欲しいと望んでいます。 子供の話と大人の話を交差させ、万人の普遍的な問題として捉えた優れた作品。 解決困難な現実を、ハッピーエンドで終わらせることはかなり難しい。 それを承知で、子供達に希望を託す監督の姿勢が、この映画を力強いものにしています。 静岡シネギャラリー 10月14日(金)まで 浜松シネマイーラ  10月29日(土)〜11月18日(金)