老練監督の美酒を飲む/映画「ゴーストライター」

世界の不条理を描くことが目的であったとしても、 映画を知り尽くした老練な監督にとって、 映画ファンを「う〜ん!」とうならせる事こそ最高の満足なんでしょう。 映画「ゴーストライター」を見て、私も映画の醍醐味を堪能しました。


元英国首相アダム・ラングの自叙伝執筆担当のゴーストライターが フェリーから落ちて溺死する。 その後任を依頼されたゴーストライターユアン・マクレガー)が主人公。 彼はラングが滞在するアメリ東海岸の孤島に缶詰になり、その仕事を進める。 直後、ラングはイスラム過激派テロ容疑者を拷問にかけた事で戦犯容疑がかかる。 原稿を書いていくうちに、政治スキャンダルとともに、 ラングの自身の過去に隠された秘密に気付き始めるゴーストライター。 やがて彼は、国際政治を揺るがす怖ろしい影に近付く羽目になる。 冒頭の、前任のゴーストライターの事故死(?)。 雨と波、フェリーと動かぬ車、波打ち際の水死体。 暗雲たれこめる陰鬱なムードが、終始この映画の基調となる。 単純に、ゴーストライターとして、 元首相の偉業を讃える自叙伝を口移しになぞれば済んでいたこと。 偶然、前任ゴーストライターの死の疑問に気付くことになったばかりに追われる男に。 「知りすぎた男」は、アメリカを敵に回す運命に巻き込まれていく。


ラスト。 全てを知ったゴーストライターは、ジャーナリストの使命を全うしようとする。 しかし・・・。 その結末をワンカット、ワンシーンだけで見せる。 現場を描かず、想像させるテクニックで、観客をアッといわせてしまう。 ロマン・ポランスキー監督、アカデミー賞受賞作品「戦場のピアニスト」では、 社会派の一面も見せましたが、元来はスリラー、サスペンス物がお得意。 この映画をみて初期の頃のサイコスリラー「反発」や「ローズマリーの赤ちゃん」 代表作「チャイナタウン」を思い出しました。 あまりの旨さと面白さで、終わった後しばらく席が立てません。 老練監督から美酒を勧められたような、極上のエンターテイメント映画でした。 静岡シネギャラリーで、11月12日(土)〜25日(金)上映中