全国でふたりだけ!さわらを剥ぐ職人

先週、新しいさわらヘギ板を捜して、長野県木曽路を訪れた。 東名高速東海環状自動車道中央自動車道を乗り継いで、中山道へ。 山と山の谷間を上下し、川のほとりをうねうね蛇行する旧国道中山道は、 山を切り開いて強引に道路を引いた高速道に比べ、ドライブの楽しさが増す。 「木曽路はすべて山の中である」の言葉どおり、山また山を越えていく。 木曽には木曽五木といって、ひのき、あすなろ、さわら、ねずこ、こうやまき と五種の針葉樹の原生林があり、江戸時代から保護してきた。 これらは建築、家具や生活雑貨の木製品に使用され、多くの人に愛されてきた。 製材技術の乏しい時代、板をつくるには木を割る、 薄くするには剥ぐ(引き裂く)等して板にしており。それをヘギ板と呼ぶ。 初めはひのき、材が乏しくなり今では、さわら、ねずこ(黒部)が使用されている。


そのヘギ板職人の第一人者、小林さんの工房を訪れた。 「ヘギ板の仕事は昔からの技法そのままの仕事です。 変わった所は原木を切るにチェーンソーを使い、 巾を決めるのに丸のこを使う位で、後は手、足、の技術です。 皆さんの周りにある木では手作業で1ミリの薄さにする事は考えられないでしょう。 だから説明をしても解って貰えない事多く、ヘギ板が忘れられて行くことが残念です。」 小林さんは全国でふたりしかいないヘギ板職人のひとり、もう後がいないそうだ。


目の前でさわらの板を引き裂く作業を見せてくれた。 製材では死んでしまう木材の繊維が、剥ぐことでそのままの材質感で生きている。 裂いた柾目や板目の凹凸が陰影となり、光を当てると美しい光沢感がある。


現在は和風建築が少なくなり、利用頻度も減っている様だが、 多くは網代にして天井や腰板、衝立に使用している。 常々このさわらヘギ板材のテイストを生貸した家具や小物を作ってみたいと考えていた。


今回、デザイナーからヘギ板を使用した厨子の製作の依頼があった。 前回と違うすっぽりとヘギ板で覆われた民家の様な厨子のスケッチ。 はたして、この材を使って製作が可能かどうか、思案している。