「ヒトラーのウィーン」 by 中島義道

哲学者中島義道氏。 私は一人の作家としては、多分氏の本を一番多く読んでいると思う。 と言っても哲学関連書は結構難しいので、 もっぱら世の中の迷惑事や人生での悩み事を綴ったエッセー的な著書がほとんど。 ご興味があったら、初期の2作を読んでみて下さい。    中島義道著「うるさい日本のわたし」(日経ビジネス人文庫)  中島義道著「みにくい日本のわたし」(新潮文庫) 社会の過剰なお節介サービスに対し孤軍奮闘、ドンキホーテ的彼の抵抗の姿に、 おなかの皮がよじれるほど笑ってしまいます。 彼の良さは内容も素晴らしいが、文章が天才的にウマイ!こと。 心理学社会学的難題も、淀みなくサラサラ流れる清流のごとき文章で読者を魅了。 何度もかみ砕いて素人にも解りやすく、かつユーモアを忘れない心の柔軟性を持つ。 彼のサービス精神の塊のような多くの著作は、いつも私の知的好奇心を刺激した。 さて、その中島義道氏が最近興味ある本を出版した。  


 中島義道著「ヒトラーのウィーン」 (新潮社) ドイツ時代と比べてほとんど資料に乏しいヒトラーの青年時代(それも17歳〜)。 美術建築に憧れ、片田舎のリンツからウィーンにやってきた青年の夢と現実。 美しき都ウィーンはヒトラーのグロテスクな怨念をどのように醸成していったのか。 中島義道氏はウィーンを第2の故郷と任じているほどのウィーンおたく。 けれども、それまでのこの都市に対する心の葛藤は、彼のウィーンでの生活を描いた、    中島義道著「ウィーン愛憎」(中公新書)  中島義道著「続・ウィーン愛憎」(中公新書) に詳しく描かれている。 大学は出たけれど・・・ウィーンに放浪の旅に出た中島義道氏の青年時代に繫がり、 空想だけが膨らんだ普通の青年の物語が、ここでヒトラーの青年時代と二重写しになる。 ヒトラーに関連した「浮浪者収容所」「独身者施設」「ブラゥナウ」など、 この本で氏は、普通の旅行では決して訪れることのない、影のウイーンガイドの ナビゲーター役を務めながら、青年ヒトラーを紐解いていく。 まだ、読み始めたばかりだけれど、再び私を夢のウィーンに誘ってくれる、 中島義道氏のプレゼントと思って、ワクワクしながらページをめくっている。