終末に至る六日間の寓話/映画「ニーチェの馬」

シネギャラリーセレクション特集2013の白眉、映画リクエストで鑑賞。

2012年度キネマ旬報ベストテン1位。

1889年、イタリア・トリノ。ムチに打たれ疲弊した馬車馬を目にしたニーチェ

馬に駆け寄ると卒倒し、そのまま精神が崩壊してしまう。

その馬の話にインスパーアーされた、タル・ベーラ監督の世紀末の寓話。


一日目 暴風が荒れ狂う。父は馬に荷物を引かせ仕事から帰ってくる。

二日目 暴風が続く。馬が外へ出ず、父は仕事に行くことを諦める。

三日目 暴風が続く。馬はえさを口にしなくなる。

四日目 暴風が続く。馬は水を飲まなくなり、外から流れ者が井戸の水を飲みに来る。

五日目 暴風が続く。娘が井戸の水を汲みに行くが、水は枯れている。

    父娘馬は家を離れるが、行く宛もなくやがて戻ってくる。

六日目 ランプの油が切れ、火種もなくなる。

    暴風は止む。闇の中の夜は、しかし朝になっても明かりが差さない。

荒れ地の一軒家に住む父と娘。

娘は朝起きて、右手が不自由な父の着替えをし、ジャガイモをゆでる。

食事はジャガイモ1個と塩。そして一杯の酒。

外出も出来ず、一日中荒れ狂う窓の外を凝視している。

会話もほとんど無く、笑うことすらない。

絶望的な状況が日一日、段階的に進み、やがてすべてが失せてしまう。

生のジャガイモを目の前にして、

父は、「食べろ、食べなきゃだめだ。」と娘につぶやく。

圧倒的なモノクロの映像と荒れ狂う音、繰り返される不気味な音楽。

2時間40分の映画は、中盤まで睡魔との戦いでありますが、

やがて、絶望と虚無が漂う幻想的な世界に釘付けになります。

過剰なモノをすべてそぎ落とし、世界は人間のためにあるのではない、

と語っているような、タル・ベーラ監督の「ニーチェの馬」。

映画はここまで表現できるのだと、ただただ驚くほかない。