世の中に寝るより楽はなかりけり・・・・

「お父さん、これって杉山家の家訓なんだっけ?」

娘がフッと言ったことがある。

世の中に寝るより楽はなかりけり


    浮世の馬鹿が起きて働く

(江戸狂歌だそうです。)

そゥ言えば、若い頃からこんなコトばかり言っていた。

好景気で、黙っていても次から次へ仕事がやって来た時代。

やがて国の経済の拡大が止まり、我が社の経済も縮小の一途。

最近は、私もそんな戯れ言は、口から出なくなった。

久しぶりに、この春から請け負ったビッグな仕事があった。

マンションの一角に、茶室と能舞台を設計。

そこに納める家具を依頼された。


5月から初めて2か月を越える仕事の量と質。

均一に網代を編む部分。

四枚の折戸の開閉の具合。

側から引き出す補助テーブルの仕込み。

等々、難題をクリアして、ようやくこの日曜日東京へ納品を済ませた。

日本文化の粋(すい)とも言える、しつらいの一角に携わる機会を頂いた。

そのことに感謝したいほど素晴らしい空間だった。

さらに納品の後は、銀座の仏壇屋さんにご挨拶。

こちらでは、めったに知ることがない最高の仏教美術を拝見させて頂いた。

その日、頭と体と心を目一杯使い果たして、

車の運転も覚束ないまま、夜半に静岡に戻った後。

妻も私も、ふとんを敷く間もなく、バタンキュウと横になってしまった。

「よのなかに・・・・」

久しぶりに私の口から、そのつぶやきが出てきたようだった。

P. S.

ずいぶん自堕落な狂歌のようですが、

「欲望を満たすのためにあくせく働くよりは、身の丈に合った生活を送り、

 ゆっくり考えるためのエネルギーを蓄えるほうが、より人間らしくていい。」

と解釈するのが、今風でしょうね。