「羽衣」あっての、世界文化遺産・富士山

富士山が世界遺産となったことは光栄ですが、

自然遺産ではなく、文化遺産というところが複雑でした。

地元静岡市にある「三保の松原」も同様。

風景そのままより、そこから眺める富士山が文化的にどうなのか?

・・・って言うことなんですよね。

そんなことを思いながら、今「羽衣」の謡(うたい)をお稽古しています。

ごぞんじでしょうけれど、

能「羽衣」は、毎年ご当地三保の松原薪能が行われるほど、有名です。

私も以前鑑賞したことがありますが、自分で謡うことは初めて。

ただ、難易度としては初級の中ぐらいなので、やっとその番が回ってきました。


 風早の 三保の浦曲を漕ぐ船の 浦人騒ぐ波路かな

 これは 三保の松原に 白龍と申す 漁夫にてそうろう♪

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ワキが登場し、三保の松原で衣を拾います。

次にシテの天人が登場し、こう言います。

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 のう その衣は此方のにてそうろう

 何に 召されそうろうぞ♪

返せ、返さぬの問答がありますが、

天女が舞いを舞うことで、漁夫は衣を返し、

最後に天女は天空に舞い上がって行きます。

春の美しい風景と華やかな音楽と舞い。

世阿弥の美意識が溢れる素晴らしい能です。


謡い進んでいく内にハッと気付きました。

この能こそがまさしく、富士山が文化遺産であることを表している。

・・・それは、この最後の部分です。

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 三保の松原 浮島が雲の

 愛鷹山や富士の高嶺

 かすかになりて 天つ御空の

 霞に紛れて 失せにけり♪

クライマックス。天女が天に昇っていく姿を

なんと、俯瞰した位置から描いたようなスペクタクル。

室町時代から受け継がれる、富士と三保の松原と羽衣伝説。

その、素晴らしい関係を見事に謡った、まさに文化遺産なのです。