ここまでやるか、創作文楽・不破留寿之大夫(東京→静岡ひとり旅)

いつまでも「曾根崎心中」「菅原伝授手習鑑」ばかりじゃ物足りない。

・・・と思っていたら、五年ぶりの創作文楽「不破留寿之大夫」が九月公演。

たしかに、この世界にもイノベーター(鶴澤清治氏)はいた。


「不破留寿之大夫(ふぁるすのたゆう)」とは、

シェークスピアの「ヘンリー四世」と「ウインザーの陽気な女房たち」

に登場する「フォルスタッフ」という人物を、昔の日本に置き換えたもの。

音楽好きはヴェルディのオペラ「ファルスタッフ」の方が馴染みがある。

昔々のある国に、年老いた領主の息子「春若」という世継ぎと、

その世話役を努める「不破留寿之大夫」がいた。

潔癖で直情型のスリムな若者と、大酒飲み太鼓腹の好色ほら吹きおやじ。

居酒屋の女房達との偽の恋文事件がからんで、丁々発止の大騒動。

しかし、領主が亡くなり世継ぎの世に変わって・・・・。

時代のお荷物となった不破留寿之大夫は、この国から追放されてしまう。

その去り際のせりふが泣かせる。 <パンフレットより>

「・・・・・・・・

 春若は名誉ある領主となったが、名誉など所詮浮世の泡沫。

 つまらぬものじゃ。

 名誉にこだわって戦なんぞして、手足を失ったらだうする。

 名誉が、なくなった手足をもと通りにしてくれるか。

 くれるものか。

 傷の痛みをとってくれるか。

 くれるものか。

 名誉とは何じゃ。言葉じゃ。

 言葉は空気じゃ。空しいものじゃ。

 やがて時がくれば、戦いなど愚かしいとわかる時代もやって来やう。

 ・・・・・・・」


三味線を弓で弾き、琴も登場する珍しい演出。

義太夫の語りが、移ろいやすい世の姿をユーモアを交えて泣き笑う。

舞台では豪華絢爛たる衣裳の人形たちとその黒子数十人が

ぶつかり合いつかみ合いの大騒ぎ。

大夫方、三味線方、人形方のアンサンブルが一体となって、

スケールの大きい人間喜劇を繰り広げていった。

ひとり旅の締めとなった、夢のような舞台に大満足。

人形浄瑠璃って、人なつっこく情に溢れて、もの凄く面白い。

またまた文楽にぞっこんとなってしまった夜だった。