今年最高の衝撃作品・チェコ映画「異端の鳥」

 

暗そう難しそう、更に上映時間が長い。

評判の映画だから観たいけれど気が進まない。

観る前はそういうタイプの映画だと思っていた映画「異端の鳥」。

 

結果、この映画は難解でなく、時間が長くも(3時間)感じませんでした。

また、暗闇の中にかすかな明かりが射してくるような映画でした。

 

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「異端の鳥」とは原題で「Painted Bird」といい、

映画の中の一場面に出てきます。

農夫が鳥の羽にペンキを塗り、同じ鳥の群れに放つと

鳥の群れはその鳥を自分たち違うとみなし、次々に突いて殺してしまいます。

 

この映画は第二次世界大戦中のヨーロッパのある国。

ホロコーストから逃れてきた少年が、祖母が死んだため1人になってから後、

様々な村で過酷な体験をしながらも家までたどり着く、

一種のロードムービーの形式になっています。

 

村人たちと違う髪の毛と目の色を持った少年は

全ての所で、「異端の鳥」のように虐待を受けます。

あまりの酷さに途中退出者が続出したとか話題になりました。

 

この映画が描くのは、少年が出会った人達がどんな事をするのか。

人間は異質なモノに対して、どこまで残虐な行為が出来るのか。

怖いもの見たさと、もういい加減にしてくれという勝手な観客は

まるで自分が受けているように追体験していきます。

 と同時に、そういう行為を受けたモノはどういう風にして

自分を守り、生き抜いていくか。

大人だったら自殺という方法を考えるかもしれないけれど、

動物とか子供はそこまで思いつかない。

 

 大人を見習いながら、あるいは大人と戦いながら、

この逆境の中で生き残る知恵と技術を身に付けていきます。

その為に、この少年は言葉を失ってしまうけれど。

いわゆる一種のサバイバル映画のようにも取れます。

 

最後は戦争が終わり、名前も言えなかった少年は父と再会し、

思い出したように自分の名前を窓のガラスになぞります。

単なる異質の生き物として名前さえ知らされていない観客が、

初めてこの少年が普通の人間であることに気付く感動的な場面です。

 

少年が行く先で出会う人の名前が各章のタイトルとなる映画ですが、

最後の章で少年の名前がタイトルになり明かされます。

 

この映画はただ一点、「人間とは何か」を見つめ、

私たちに学ばせ考えさせる、貴重なそして極めて崇高な作品です。

(2020/11/23 静岡シネギャラリーで鑑賞)