コミュニケーション本来のすがた/内田樹著「街場のメディア論」

内田バブルという言葉があるほど人気の、内田樹神戸女子学院教授。

だいぶ前に、氏の初期の本「ためらいの倫理学」という本を読んだけれど、

少々難しいというか、どちらかというと読みにくい本だった記憶がある。

さて、今回の話題の本「街場のメディア論」。

学生向けの授業のやり取りを編集した街場シリーズの一環。

わかりやすく、読んでいてなるほどと思えることばかり。

若者が未来を肯定的に生きるためのメッセージ、となっている好著でした。



今、新聞やテレビなどマスメディアが危機的状況にある。

それはITという新しいメディアに取って代わられたからではない。

「自分が言わなくても、誰か代わりに言いそうなこと。」ばかり並べ、

「自分がここで言わないと、たぶん誰もいわないこと」を語らなくなったから。

メディアが世論を代表するモノ、メディアはビジネスだ、という意識が業界の大勢。

命にかかわるほどの問題提起をすることのなくなった、

現代のメディア界の退廃を指摘しています。

続いて、出版の危機についても論じています。

読者が、安く、知的負荷が少なく、刺激的な娯楽のほうに向いているため、本が売れない。

と、読者の知的な質を見下し、単なる消費者として認識している出版業者が多い。

でも、ITに見られるように、知的好奇心の旺盛な人は多いのであるから、

彼らに電子書籍を含めた、本に出会えるチャンスをもっと有効活用することが先決だ。

そして、この本の白眉は、最後「コミュニケーション本来の姿」について語っている所。

未知の者同士の交流は、「これは何だろう?」と、

不思議に思う贈り物(交換品)の価値を認めることから始まる。

疎遠な環境と親しみ深い関係を取り結ぶ力

が、コミュニケーションに生命を与えるのだ。

そうしたコミュニケーションの本質を理解しているかどうか、が分かれ道。

そこから得た情報を、自身の養分と活力にすることが出来る人だけが、危機的状況を生き延びる。

最後は、りっぱな現代文明論になっていました。