壮大なる空疎/映画「ツリー・オブ・ライフ」

伝説の映画作家テレンス・マリック監督。

67歳までの生涯に、僅か5本の映画。

2作目の「天国の日々」で評判をとり、

5作目の「ツリー・オブ・ライフ」カンヌ映画祭パルムドール賞受賞。



1950年代半ば、中央テキサスの田舎町で幸せな結婚生活を送っていた一家。

しかし夫婦の長男ジャックは、

信仰にあつく男が成功するためには「力」が必要だと説く厳格な父と、

子どもたちに深い愛情を注ぐ優しい母との間で葛藤する日々を送っていた。

やがて大人になって成功したジャックは、

自分の人生や生き方の根源となった少年時代に思いをはせる……。

今の友達親子と違う、50年代の親子の確執は、

ちょうど私たちと同じ世代なので、非常に共感できる。

父の存在は絶対的であり、母は愛は満ちている。

父にあらがい、母に甘えながら成長する姿は、まっとうな子供の姿だと思う。

一方、ヨブ記を引用し、宗教的な天地創造の神話の世界を壮大な映像で展開する。

宇宙、海、恐竜、噴火、瀑布、微生物、大樹、子宮などの映像が脈絡なく続く。

神がこの世界を創造し、人間をこの世に送り出した。

そしてその人間の英知が生み出した、宗教という世界。

自然と人間と神の世界が、マリック流マジックで、独創的な映画になっています。

この映画を肯定するか否定するか。いや、簡単に言って、好むか好まざるか。

私は後者の方です。

ここにあるのは、壮大なる空疎のように思えて仕方がない。

よくこの映画と対比されるのが、1968年製作のSF映画2001年宇宙の旅」。

類人猿が、武器とした骨の一片を空に放り上げると、それが宇宙船になり、

「美しき青きドナウ」が流れ、宇宙遊泳が始まる。

人間の文明の進化を数分で表現した、キューブリック監督の、斬新さ、明解さ。

ツリー・オブ・ライフ」には。その知的なめまいのような驚きはなく、

ただただ意味不明で、長さのみが感じられるばかりだった。