一人称と三人称/映画「人のセックスを笑うな」
山崎ナオコーラの人気小説を同性の井口奈巳監督が映画化。
映画をみて本を読んだが、両方から受ける印象はだいぶ違っていた。
磯貝みるめと、えんちゃんと、堂本は美術専門学校の同級生。
彼らの学校に、かつての卒業生ユリが講師として赴任してくる。
みるめは、人妻でありながら天真爛漫な彼女に翻弄されながらも徐々に惹かれていく。
さらに、えんちゃんはみるめに、堂本はえんちゃんに、口には出せないけれど恋心を抱くようになる。
三人の若者と一人の中年女の、醒めているようで真剣な恋模様が展開していく。
映画の方は出来るだけカットを少なくし、みるめ役の松山ケンイチをはじめ、
俳優のアドリブなどを生かして、それぞれ登場人物の個性と関係を浮き彫りにしていく。
いっぽう、本は「オレのユリは・・・」で始まるように、みるめを通して人物が描かれる。
つまり、映画は三人称、原作は一人称の物語なのだ。
だから、永作博美演じるユリは魅力的だけれど、我が儘で身勝手な女に見えてしまう所がある。
ユリの家を訪問したみるめに「この人旦那さんよ。」と突然紹介したり、
逢い引きの最中、「灯油がないから、旦那に入れてもらおうよ。」と言ったりして、
ユリがみるめを驚かす場面は、何か作為じみていて不快な感じがした。
39歳の女が、19歳の少年をもてあそんだとも思えるし、男女が逆ならば犯罪になりかねない。
それが、原作の方は、恋する男の子が一方的にユリを描いているから、
どんなに勝手な行動をしても、許してしまうくらい可愛い女に思えてしまう。
いやな態度と見えても、ユリとみるめの関係がほほえましくて、共感できる。
それよりも、映画の中では、みるめに片思いをするえんちゃんをだいぶ膨らませて描いている。
本にはチョットしか出てこないこの人物が、蒼井優という希有の女優を得て、実に素晴らしい。
ラスト、みるめの前から姿を消したユリを思って言う決めゼリフ、
「会えなければ終わるなんて、そんなもんじゃないだろう。」
映画も文字であらわすが、原作のほうが自然で、みるめの切ない思いが伝わってくる。
(画像はチラシから借用しました。)