厨子職人 N氏

若いクラフトマンが、厨子職人を目指しているという話を聞きました。

厨子職人」。そんな職種があるのかと、グーグルで検索。

そう言う肩書きで載せている人が、1人はいましたが、作品点数は一点のみ。

厨子」とは?  (三省堂 大辞林より)

 ・仏像・舎利・経巻などを安置する戸棚形の仏具。

   扉が両開きで、漆や箔(はく)を施したものが多い。

 ・古代の貴族住宅における調度のひとつ。両開きの扉をつけた置き戸棚。

   文具・書物など身の回りの品を収納するためのもの。

ようするに日本古来の箱物で、大切な物を納めておく入れ物を言います。

正倉院の「赤漆文欟木厨子」、法隆寺の「玉虫厨子」などが有名ですね。

「吉蔵」は10年ほど前から、厨子の製作に力を入れています。

箱物が得意な、静岡ならではの精密で堅牢な指物技術が、厨子製作に相応しいからです。

厨子」は単なるカラーボックスや、桐箱ではありません。

中に納める仏像や宝物と同格の価値を要求されます。

見ていると自然に敬虔な気持ちになったり、大切に扱おうという思いが沸いてくる。

気品があり、神々しく、洗練されている。

そう言う要素が備わって、はじめて厨子の価値を認めてくれるわけです。



「吉蔵」の職人さんの1人に、誰よりも細かく、丁寧な仕事をするNさんがいます。

 ・吉蔵オリジナルの「龕室」、Gマークに選定された「ZUSHI KASHIKO」

 ・家具調仏壇を手がけるM社、現代仏壇で有名なY社から依頼されたOEM厨子

 ・さまざまなお客様の要望に答える、特注厨子

すべて、このNさんの手から生まれています。

彼はまったく自分のことを「厨子職人」と認識していません。

しかし、古典型厨子から、現代厨子、さらに前衛的厨子まで、

これほど幅広く製作出来る人は、日本でもないでしょう。

すべての基本の指物技術が、体の中にそなわっている。

さらに、どんな未知なるデザインもこなしていく、旺盛な好奇心。

独自の技とチャレンジ精神を持って、もの作りを楽しんでいるようです。

自分を売り込むこともなく、ひたすら寡黙に、木工の新しい世界を切り開いていく。

Nさんのような人のもとで働き、指導を受ける若者がいたら、

将来、正真正銘の、今に生きる「厨子職人」になっていくとと、確信しています。