わたしたちの物語/映画「海炭市叙景」

夭折した小説家・佐藤泰志の短編集「海炭市叙景」のなかの5編を映画化したものです。 プロの俳優とオーディションで募集した、モデルとなっている函館市民が混在して、 淡々としたドキュメンタリーのような雰囲気を出しています。 地方に住む人たちの、何処にでもある話。 新聞に載るほどではないけれど、本人にとっては足を引きづるように鬱陶しい毎日。 そんな、わたしたちの物語がここには描かれています。


ドックの閉鎖とともに解雇される兄妹。 初日の出を見に雪の山に登るが、下りのロープウェイの金がない。 歩いて下った兄が戻ってこない。6時間も待ち続ける妹。 土地開発のため立ち退きを迫られている老女。 彼女は最後の一軒になってもガンとして拒み続ける。 連れ添いは飼い猫のグレ。その猫が何処かへ行ってしまった。 プラネタリウムで働く中年男と水商売の妻。 息子は父と口をきかず、妻も仕事に行ったきり一晩帰ってこない。 ガス屋を継いだ若社長は新しい事業がうまくいかず、 再婚した妻に暴力を振るい、従業員にも当たり散らす。 家庭内暴力は、妻の義理の息子への虐待につながっていく。 海炭市の路面電車の運転手を務める父と、東京に出て行った息子。 仕事で帰省する息子は実家へ帰ろうとしない。 二人は二言三言会話を交わすだけで、息子は東京へ帰っていく。


我々の人生は取るに足らないもの。 暮らしていく毎日が、苛立ちとあきらめの連続。 それでも、夢や希望のかけらを追い続けて生きていかなければならない。 それぞれの逸話があまりにやるせなくて、辛くなって仕方ありません。 でもそこから生まれる共感は、心の中に染み込んでいつまでも忘れることはありません。