ようこそ スーパースター!!
台風が静岡へ接近したあの日。
東京から○○さま一行が、わが工房へ取材にやってきた。
○○さま。
日本では、多分95%は知っているであろうスーパースター。
世界にも多くのファンがいるスポーツ選手。
まさか、実際に我が社にいらして、家具の説明をさせていただくとは・・・。
1か月ほど前、電話があった。
「○○さまが、日本のもの作りに興味があって、御社を訪ねたいそうです。
こちら、全国の工房めぐりをして、職人さんと対話する番組を作っている会社です。」
「ありがとうございます。
弊社の広告宣伝していただくのはありがたいのですが、費用の方は・・・。」
「いいえ、広告宣伝もしませんし、費用もかかりません。
ただ、混乱をさけるため、来訪はご内密に。関係者のみでお願いします。」
それからスケジュールのやりとりがあって、当日となった。
雨の中、我が社の狭い駐車場に車を止めて、まず、スタッフが降りて挨拶。
カメラやビデオ機器が組み立てられ、車を囲む。
車のドアがサッと開いて、○○さまが登場。
「こんにちは! ○○です。」
挨拶をする○○さまと私を、スタッフが囲み、すでにカメラが向けられている。
階段を上がっていただいて、ショールームに案内する。
○○さまは、展示してある家具をじーっと見つめている。
そして、スタッフとカメラが私たちを凝視し、しばし無言の時間。
「え〜? 打合せはしないの? まだ自己紹介もしていない。」
何から話したらいいのか、誰も教えてくれない。
その内、○○さまがポツリ。
「指物とはどういう事を言うんですか?」
スーパースターと話しているドキドキ感というより、
撮影されているという緊張で、言葉がなかなか出てこない。
それでも、気を取り直して、言葉を噛みしめるようにわが工房の説明に入った。

父の代、江戸指物職人さんの指導を仰いで、開発した島桑指物家具のこと。
私が李朝家具に魅せられ、我が社独自の李朝スタイル家具を創作したこと。
手仕事に関心を持ったデザイナーとのコラボで生まれた、モダーン指物。
そして、祈りの家具という新しい分野にシフトして創作した厨子の数々。
寡黙ながら、的確に家具か醸し出す雰囲気を捉え、技術やデザインの質問をする。
ご自身も、建築や家具に興味があり、その分野の専門家との交流があるらしい。
撮影が終わってようやく、緊張がほぐれて雑談の時間となった。
世間話に気さくに答えてくれる。
記念撮影をしていだだき、さらにサインも。
私たちは、通行止めと渋滞を案じながら、雨の中東の方へ向かった一行を見送った。
番組は後日、編集して放映されるでしょう。
何か、夢のような1時間。
まだ、その人と話していたなんて、信じられない。