リアルなファンタジー/映画「おおかみこどもの雨と雪」
細田守監督の描くアニメはとてもナイーブで、
ヒヤッとするほど、冷たい現実を垣間見せる場面がある。
基本的にファンタジーではあるけれど、そこがどちらかというと大人向けなのだろうか。
子供が語る母の半生。
学生の花は、影ある偽学生の彼と知り合い恋に落ちる。
そして、おおかみの末裔である事を知りながら、子を身ごもる。
楽しい日々は続かず、獲物を捕りに行ったおおかみ男は命を落とす。
都会で暮らせないことを悟った花は、山奥へ籠もって子育てを始める。
自分が人間と違う存在であることに向き合わなければならない男の孤独と虚無。
花の恋する感情は、たとえ相手がどんな生き物であっても消えていくことのない真実。
マイノリティの生き方を描く、細田監督の目はすこしもファンタジー的ではない。
雪の日に生まれた姉(雪)は、自由闊達、男勝りに自然の中を駆けめぐる。
雨の日に生まれた弟(雨)は、臆病慎重、何ごとにも馴染めず母の手の中から離れない。
しかし。時折オオカミの姿に変身する子供達はやがて、自分の生き方を決める時が来る。
この映画で驚き、感動的なのは、その自立が人間で言うと10歳位の時であること。
オオカミの年齢としたら、しごく当然なのかもしれないけれど。
人間として生きようとする雪と、オオカミとして種族を守っていこうとする雨。
これから、マイノリティとして厳しい人生を生きていかなければならない。
そのため、自ら親から離れ、自立し自分の人生を決めていく覚悟が必要となる。
ハッとするくらい、デリケートで豊かな自然の描写に魅せられながらも、
困難であるがゆえに、まっとうに人生に立ち向かう親と子の姿に衿を正したくなる。