洋楽一辺倒だった私の趣味のなかに、日本の古典芸能が入ってきたのは、
まったく妻の影響です。
最初は能楽堂への招待。
あの、気の遠くなるほど退屈な能舞台を、何度も見せられました。
続いて歌舞伎座へ。
最初に見たのは「義経千本桜」だったかな。
しかし、その後暫くして行った「鳴神」を見て、俄然興奮。
滝壺を舞台にしたスペクタクルもそうですが、
すっかり魅せられてしまいました。
その後は、堰を切ったように「歌舞伎」にはまってしまって、
というより、團十郎の演じる歌舞伎を見たくて歌舞伎座に出掛けました。
お正月に見た「助六由縁江戸桜」。
今は亡き中村雀右衛門演じる揚巻とのコンビで「助六」演じる團十郎の粋の真髄。
カタチだけは立派な「暫」
数倍の大きな衣裳を着て「しばらく!」のかけ声をすることが出来るのは團十郎のみ。
豪華キャストの「三人吉三」
玉三郎の「お嬢吉三」仁左衛門の「お坊吉三」團十郎の「和尚吉三」の絶妙な掛け合い。
これらは全て、團十郎でなければ、見に行くことはなかったと思います。
隈取りなくとも、十分歌舞伎役者の素質が備わっている、大きい顔と目。
クセがありすぎて、一度聞いたら忘れられない空気の膨らんだような声。
クソ(まじめ)とか、(歌舞伎)バカとかの愛称がぴったりの、豪腕直球の役者魂。
あの頃の團十郎さんは、理屈抜きに人(私)を惹きつける力を持っていましたね。
残念ながら、病に罹った以降の彼の姿は見るに忍びず、
歌舞伎の方からはだんだん遠のいて行きました。
そして、この訃報。
「能」に始まった私の古典芸能への興味は、今以て「能」であり、
最近は「文楽」に夢中になって国立小劇場に通っております。
特に歌舞伎が好きな訳でなく、團十郎あってのことで今は歌舞伎はご無沙汰です。
それでも当時の思い出は脳裏に焼き付いており、
彼の存在を一生忘れることはないでしょう。
「ミスター歌舞伎」、ほんとうにお疲れさまでした。
やすらかに、ご冥福をお祈りいたします。