カズオ・イシグロ著「日の名残り」を読む。

前から読みたかった、カズオ・イシグロの本を読み始めた。 日の名残り」Remains of the day 何と素晴らしいタイトルだろう。

1993年のイギリス映画「日の名残り」を見たのが、 カズオ・イシグロを知るきっかけとなった。 静岡七間町に静活映画街があり、その中のミラノで上映。 アメリカ映画「フィラデルフィア」とこの映画と2本立てだった。 「フィラデルフィア」を期待していったけれど、 「日の名残り」の方が断然良かった。

イギリス映画「日の名残り」(1993年公開) 品格ある執事の道を追求、誇りとしているスティーブンスは短い旅に出た。 離職した女中頭に、主の変わった屋敷に戻って、働いてもらうために。 美しい田園風景の道すがら様々な思い出がよみがえる。 長年仕えたダーリントン卿への敬慕、執事の鏡だった亡き父。 二つの大戦の間に邸内で催された重要な外交会議の数々。 その中にあって、芽生えた女中頭ケントンとの秘めた恋と別れ。 後悔をも偽りの中に押し殺してしまう、ストイックな男の悲哀。 映画は失われ行く伝統的な英国を交差させて描いていく。 執事を演じたアンソニー・ホプキンスと、女中頭のエマ・トンプソンの名演技。 戦時中の奥深いイングランドの風景と建物を見事に捉えたキャメラ。 小説と同じように、淡々ときめ細やかに語りかける物語展開。 DVDで、何度も何度も見直した我が生涯の映画となっている。 そして、最近本を手に入れ、この原作を読み始めた。 プロローグ、一日目、二日目・・・六日目と 章を追って男のモノローグが続いていく。 一緒に映画を見た妻は、こういう偽りの姿を持った男には否定的だった。 でも、こうでしか自分を肯定できない、孤独で哀れな男の生涯を、 私は共感と憧憬をもって読み続けている。