ふたりの俳優に圧倒されたSPAC演劇「ふたりの女」
SPAC劇団の観劇2回目は日本平野外劇場での「ふたりの女」。
唐十郎のアングラ演劇が原作であることと、
たいへん興味深かった。
精神病院を舞台に、病院の先生光一(光源氏)が、
アオイ(葵の上)と六条(六条御息所)の恋のエロスに振り回される話。

古典の好きな妻の話によると、
この劇ではラブレターを書くほど光一はアオイに恋しているようだけれど、
源氏と葵の上の関係はそれほどラブラブではなかったらしい。
実際、源氏は自分の子を宿した正妻の葵の上がいながら、夕顔のところへ通っている。
六条御息所もこの劇の六条ほど源氏(光一)にモーションをかけているわけでもない。
葵の上も六条御息所も、源氏より年上でプライドが高く、
葵祭の折、お互いの陣地の取り合いで車争いに敗れた六条が、
その恨みを生き霊として葵の上に取り付き、呪い殺したと言われる。
恋の嫉妬というより、辱めに合いプライドを傷つけらた事も大きな原因のようだ。
SPAC 版「ふたりの女」では、後半で気付いたのだけれど、
一人の女優がアオイと六条の二役をやっている。
だからむしろ、光一がアオイがいながら六条の事も気になるのは、
女性像の二つのタイプ、双方に惹かれている男心の反映とも取れる。
それが証拠にアオイの死で傷心していた光一は六条と抱擁することで
立ち直るようなラストシーンである。
重要な車争いの場面もスピードレースの場に置き換えているけれど、
アオイと六条が争ったわけでもなく、印象が薄い。

むしろこの劇の面白さは、物語より俳優達のタガが外れたリアクション。
きちんと調えてあった砂の格子ラインが蹴飛ばされズタズタになるほど、
役者さん達の動きが縦横無尽で面白い。
特に一人二役を演じた「たきいみき」さんの、
ふたりの女の霊が乗り移ったような、圧倒的な存在感。
世界に羽ばたいていくSPACを代表する大物女優さんなんでしょうね。
それと、空想の世界で遊んでいるような駐車場係を演じた男優さん。
無を見つめて動かない馬面の表情が他の俳優さんから浮いていて、
その不気味さは、それがもともとのキャラクターに思えるくらい。
とにかく演じているという感じが全くしないお二人の俳優さんだった。
1970年前後学生だった私は、あの新宿の猥雑とした空気の中で、
新宿文化でATGの映画を見たり、
三平食堂で安い食事にありついたり・・・。
この演劇を観ていると、その頃の事が時々走馬燈のように浮かんできて、
あの夢のような学生時代が懐かしくてしかたがなかった。