家具屋が買った椅子(1)

世の中で言う、いわゆる「名作椅子」。

それはそれで素晴らしいけれど、すでに多くの人に語り尽くされているし、

零細企業のオーナーには縁のない物なので、ここでは私が好きで買った海外の椅子をご紹介。



あこがれのチェコッティ・コレッティオーネ社の椅子です。

イタリアの北部にある工房で、素材、技術、デザインとも世界第一級の家具メイカー。

お客様はアメリカの大富豪や、アラブの王様とかがずらり。

私なんか身分不相応もいいところなんだけれど、どうしても欲しくなった理由は、この箇所。



菱形格子で出来ている笠木の部分。

模様だけで素晴らしいけれど、さらに、背に沿うようにカーブしているんです。

これ、もらった! せったい出来る。

茶箪笥の、抽出の、太鼓の細工。

あれです! あれが作る事が出来れば出来るはずです。

・・・・と思いながら、たしかにパターンは出来たけれど、それだけではなかった。

前足も、後ろ足も、背も、幕板も、微妙に角度をもっている。

中心の、深紅のビロードクッションに招かれるようにと、内側に傾いている。

ブラックチェリーのそのエレガントな脚線から匂い出る色気は、北欧家具とは違うテイスト。

私がなによりもイタリア家具を愛する理由です。

この椅子、現在廃盤で、チェコッティ・コレッティオーネ社のカタログにもありません。

日本でも、二桁の数があるのでしょうか。

ただ、幕板に脂止まりはあるし、こんなに華奢で耐久性は大丈夫なんだろうか。

今なら絶対に買いませんが、10年ほど前、割り引いてもらって十数万円で手に入れたものです。