I'ts a free world/映画「この自由な世界で」

あの、my best movie「ブロークバックマウンテン」がなかったら、 たぶん映画「麦の穂をゆらす風」がそれに変わっていただろう。 そのケン・ローチ監督の新作「この自由な世界で」も素晴らしい作品でした。


派遣会社を解雇されたシングルマザー、アンジーは友人ローズと共同経営で、職業紹介所を立ち上げる。 東欧やイスラムからの移民を、安い賃金でロンドンの労働市場に送り込む。 一方、両親に預けている息子ジェイミーが気掛かりな彼女は、仕事が安定したら引き取ろうと思っている。 ビジネスは軌道に載るものの、賃金不払いのトラブルもあり、労働者から反感を受けることも。 彼女はさらにもうけを増やすために、違法であるパスポートのない不法労働者の斡旋に手を染めはじめる。 やがて、彼女の強引なやり方に友人は去り、 賃金不払いに怒る労働者が息子ジェイミーを誘拐する事件に発展していく・・・。 貧しい者がさらに貧しい者を搾取する、負の構造。 底辺から這い上がるためには、どんな汚れた手段も辞さない主人公。 「I'ts a free world」のタイトルが示す、自由社会の冷酷な現実が描かれています。 いつもながら、ケン・ローチ監督が描く人物の魅力的なこと。 人と社会を見つめる、厳しくも暖かいまなざしに、どんな悪人でも共感してしまう。 彼の映画の特徴である、口角泡を飛ばして、罵り、議論する場面が、何度も登場します。 だから、自然体の人々の熱気の中に、いつの間にか自分が入ってしまったような気になります。


徹底的に打ちのめされるアンジー。 それでも、再び彼女は東欧向かい、移民労働者に仕事の斡旋を始めます。 斡旋手数料を受け取り、お札を数える、主人公の般若のような顔と、 仕事にありついてホッとする、移民の中年婦人の笑顔。 深い感慨が胸に残るラストシーンです。 (画像はチラシ、パンフレットから借用しました。)