亡くなってから注目された画家 リヒャルト・ゲルストル

国立新美術館の「ウィーン・モダン」展は概ね物足りなかったけれど、
ひとつ思わぬ収穫があった。

「リヒャルト・ゲルストルの油絵2点が展示されていた事」

ゲルストルの事は私がウィーンへ行くまで全く知らなかった。
ところが、ウィーンのいくつかの美術館で
クリムトやエゴンシーレの絵の中にあって、
強烈な印象を残した画家がゲルステルだった。

そのほとんどが肖像画や自画像。
しかもニコリともしないどちらかというと暗い顔ばかり。

そして最も強烈だったのが、あのクリムトの「接吻」が
展示されているベルベデーレ宮殿にあるゲルステルの「笑う自画像」

f:id:kittsan:20190524202713j:plain

口は笑っているのに、目は泣いているのか怒っているのか、
絶望的な表情がなんとも不気味だった。

彼の生き方が凄まじい。

裕福な商家に生まれた彼は画家を志し、ウィーン美術アカデミーへ入学。
ウィーン分離派に飽き足らず独自の絵画を模索し、特に肖像画や風景が多い。
音楽への関心が高く、シェーンベルグと親しくなり肖像画を依頼される。
しかしその妻マティルダと親密になり、
二人で駆け落ちをするも、女の方は夫の元に帰ってしまい失敗。
追い詰められたゲルストルは、25歳で自分の作品を燃やしてから首吊り自殺した。

当時は全く評価されなかったが、今では表現主義の代表的画家として、
クリムトやココシカらと共に、ウィーンの主要美術館に展示されている。

f:id:kittsan:20190524203625j:plain

今回の「ウィーン・モダン展」には有名な「シェーンベルグの肖像」と
もう一点、「パレットを持つ自画像」が展示されていた。
「シェーンベルグの肖像」は彼のピアノ曲を演奏するポリーニ
CDの表紙に使われているので見た人もいると思う。

f:id:kittsan:20190524203211j:plain

無くなっては困る店

先日、ラペック静岡へ行った折、
右隣の店の入り口に、こんな張り紙がありました。 

f:id:kittsan:20190513173912j:plain

 

 閉店のお知らせ
 お芋産地 問屋さんの高齢による廃業で
 美味しいお芋が入手困難になり閉店することになりました。
 焼芋・かき氷と永年のご愛顧感謝します。
 ありがとうございました。  店主

 

f:id:kittsan:20190513174151j:plain


宣伝費なし、素朴な店構え、昔ながらの製法。
だからこそ美味しく価値があり、ファンが多い。
そんなお店がまた閉店してしまいました。

美食家でなくとも、人間の舌や歯は
ちょっと注意して食べ物を食べていれば
かすかな味の違いにも気付くものです。

 

以下、私が個人的に感じている
「無くなっては困る店」
又は「無くなってしまった掛け替えのない店」
を思いつくままに挙げてみました。
  

かき氷と焼き芋の「末永」 (閉店)

焼き豚とフライの「萩原精肉店」  (閉店)

たこ焼きの「横山」  (閉店)

肉まんの新勝園   (閉店)

親子丼の「中村屋

柏餅・おはぎの「もちの家天野屋」

鰻の「満喜多」

洋菓子の「ビスケットキング」

羊羮の「愛宕下羊羮」

・・・・・・

そし指物の「名波木工所」

ご存知かもしれませんが、我が社「吉蔵」の専属木工所です。
この人(名波さん)の「技術」「センス」「人柄」が
吉蔵の製品の全てです。

f:id:kittsan:20190514083353j:plain

 

誰もがそう言った店を持っているでしょう。
こうした「平成」でも貴重だった店が
「令和」ではほとんど消えてしまうのではないでしょうか。
いや、そういう作り方が受け継がれ、また復活するのかも。

次回は「無くなってしまった掛け替えのない事」について少し・・・。

こんな夢を見た。

50年ぶりに再会した中学時代の恩師が主催している
文章講座に通って1年が経った。

著名な作家、川端の「雪国」や谷崎の「春琴抄」などを読んで、
皆で感想を述べ合い、最後に各自で感想文を書く。
そしてそれを先生が添削してくださる。
感想文を書く時間は残り1時間もないから集中して必死で書く。


さて、先日の文章講座のテーマは夏目漱石の「夢十夜」。
新聞に連載された10篇の夢の話が一夜から十夜まで続いている。
一部を読み合い、意見や感想を述べるのは従来と同じだけれど、
私にとっては初めての体験、感想ではなく夢の話を創作するのだ。


書き出しは漱石と同じ、「こんな夢を見た」から始める。
私の書いた夢は以下、実体験に基づく甘酸っぱい青春の話・・・。

 

f:id:kittsan:20190505090545j:plain


こんな夢を見た。          (杉山吉孝)    

ここは高校の教室。
ディベートの授業があり、4つの長机を正方形にして、
2人づつ椅子に座り、8人が順番に意見を述べていく。

僕の隣は由紀さんだった。
美しく聡明な彼女に、僕はひそかに憧れを持っている。
自分の番はまだ大分先だからどんな意見を言おうか考えていた。
そのうち組んだ足の裏に何かかすかにぶつかってくる物に気付いた。

トントントン・コツコツコツ。
何だろうと机の下に目をやると、
由紀さんのつま先が僕の足の裏を叩いているではないか。

本当? 彼女も僕に好意を持っていてくれたのか。
柔らかくリズミカルに彼女の鼓動が伝わってくるよう。
僕はすっかりいい気持になり、こちらからもお返しをしようと思ったが・・・。
トントントン・コツコツコツ。
何故か彼女の叩く音ばかりでこちらからは何も返せない。
トントントン・コツコツコツ。

返事のサインを送ろうと、懸命に足を動かそうとしていると、
そのうちボーっとした頭かはっきりしてきて、見えてきたのは娘の姿。

「お父さん、お父さん、早く起きて!」
娘の指が、私の鼻の頭を叩いている・・・。
ハッと気が付いて目が覚めた。

平成時代に私が観た映画ベスト3

平成から令和へ変わる今、私にとっては
還暦から古希へ程の感慨は無いけれど、
まあ、区切りの一例として好きな映画の話を。

 誠実であるがゆえに、時代に翻弄され取り残されていく
男たちを描いた、忘れられない3本の傑作です。
(公開年代順)

 

イギリス映画「日の名残りジェームズ・アイボリー監督

アメリカ映画「ブロークバック・マウンテンアン・リー監督

中国映画「無言歌」ワン・ピン監督

 

 f:id:kittsan:20190428121526j:plain

(1994年公開) イギリス映画「日の名残りジェームズ・アイボリー監督

品格ある執事の道を追求、誇りとしているスティーブンスは短い旅に出た。
離職した女中頭に、主の変わった屋敷に戻って、働いてもらうために。
美しい田園風景の道すがら様々な思い出がよみがえる。
長年仕えたダーリントン卿への敬慕、執事の鏡だった亡き父。
二つの大戦の間に邸内で催された重要な外交会議の数々。
その中にあって、芽生えた女中頭ケントンとの秘めた恋と別れ。
後悔をも偽りの中に押し殺してしまう。ストイックな男の悲哀。

映画は失われ行く伝統的な英国を交差させて描いていく。

執事を演じたアンソニー・ホプキンスと、女中頭のエマ・トンプソンの名演技。
戦時中の奥深いイングランドの風景と建物を見事に捉えたキャメラ
小説と同じように、淡々ときめ細やかに語りかける物語展開。

DVDで、何度も何度も見直した我が生涯の映画となっている。
そして、最近本を手に入れ、カズオ・イシグロの原作を読み始めた。
プロローグ、一日目、二日目・・・六日目と
章を追って男のモノローグが続いていく。

一緒に映画を見た妻は、こういう偽りの姿を持った男には否定的だった。
でも、こうでしか自分を肯定できない、孤独で哀れな男の生涯を、
私は共感と憧憬をもって読み続けている。

 

f:id:kittsan:20190428121541j:plain

(2006年公開) アメリカ映画「ブロークバック・マウンテンアン・リー監督

犯罪者とか障害者とか同性愛者など、
マイノリティを語るのはとても難しいと思う。
在日の姜尚中さんは人権関係のインタビューで
「マイノリティにとって最大の苦痛は、絶えず自分が何者であるかを、
自分自身にも社会に対しても、明らかにしなければならないという
プレッシャーにさらされていること。
そしてその差別が固定概念化し、自身の可能性までも奪ってしまう。」
と述べています。

主人公のイニスも自己を肯定出来ず、偽りの中で周りの人間を不幸にしていく。
最後、すべてを失った彼はブロークバック・マウンテンでの
若き日々のジャックとの思い出のみが残される。
そして、それが唯一彼が生きていく糧になるのだけれど・・・。

どんな人間も、マジョリティとマイノリティの部分をもっている。
そのため、鎧を身に付け、武装して、
社会人として生きて行かざるを得ない場合がある。
映画の男たちは、自衛し、自分たちの人生を守ることすら出来なかった。
しかし、そういう男たちの生きざまが、
愚かで、痛ましくも、いさぎよく思えてしかたがない。

この映画のもう一つの魅力は、豊かでやさしく、
悲しいまでに美しい自然の描き方です。
私が若い頃好きだった「ファイブ・イージー・ピーセス」など、
アメリカンニューシネマを思わせるタッチです。
どこまでも透明でうつろな、空と月。
カウボーイの愛を育む、山と水。
そして別れを予感させる、雪と風。
孤独な男たちの叫びを、自然が無言の言葉で雄弁に私たちに語りかけています。

原作本も読み、DVDも繰り返し観た、生涯のベストワンともいうべき映画。

 

f:id:kittsan:20190428121509j:plain

(2011年公開)  中国映画「無言歌」ワン・ピン監督

1960年。中国西部、ゴビ砂漠
荒野に掘られた塹壕のような収容所に人々が囚われいている。
轟々と鳴る風と砂。食料はほとんどなく、水のような粥をすすり、
毎日の強制労働にただ泥のように疲れ果てて眠る。
かつて百花のごとく咲き誇った言葉は失われ、感情さえも失いかけた男達。
そこにある日、上海から一人の女性がやってくる。
愛する夫に逢いたいと、ひたすら願い、泣き叫ぶ女の声が、
男達のこころに変化をもたらす・・・・。

映画「無言歌」は、歴史の闇に葬られた
中国毛沢東体制における「反右派闘争」の悲劇を、
中国の若手監督「王兵」(ワン・ピン)が映画化したものです。

厳しい自然と饑餓のなかで、朽ちていく男達。
死体や汚物にまみれた彼らの描写の彼方に青空と大地がピーンと張り詰めている。
風に舞う砂、光に浮かぶホコリさえも神々しい、この映画の豊かな映像の力。

夫を捜して幾多の土豪を掘り返し、泣き叫ぶ女。
病の恩師を背負い、闇夜に脱走を図る若き囚人。
声にならない彼らの生への思いがいとおしくてならない。

ワン・ピン監督は言っています。

歴史とはそれを記憶する人がいて、記憶してこそ歴史となりうると思う。
三者の目を持って歴史というものを記憶し、歴史として残す。
その仕事をやり遂げたいと思っています。
それこそが過去に生きた人々、我々の先達に対する尊敬の念なのだと思います。

映画「無言歌」。私の生涯のベストテンに入れたい、希にみる傑作です。

橋本治が気になる。

橋本治が亡くなった。
私と同世代の享年70歳。

彼の登場は何といってもあの刺激的な、東大駒場祭のポスター。
「止めてくれるなおっかさん、背中の銀杏が泣いている・・・」
が鮮烈なデビューだった。

f:id:kittsan:20190206194742g:plain


それから小説からエッセイ、古典文学の現代語訳と膨大な数の本を出し続けた。
まさに団塊世代の代表的異才である。

でも、天才は早死にするのことわざどおり、
古希の、今ではまだまだ油ぎっている時期にあの世に行ってしまった。

氏の本は凡人の私には極端というか難解というか、
なかなか馴染めなかったのであまり読んでいない。
「蓮と刀」「わからないという方法」くらいかな。

「蓮と刀」も有名な日本文化論「菊と刀」(ルース・ベネディクト
のタイトルをもじったのか、過激な日本男性文化論になっていて、
途中までしか読んでいない。
本当は「桃尻娘」も【窯変源氏物語』も「貧乏は正しい!」も
読みたかったけれど、スルーしてしまった。

f:id:kittsan:20190206194910j:plain

氏が亡くなった時、何故か喪失感を感じてしまい、
静岡駅前の戸田書店へ行って氏の本を探したけれど、
数々あった著書のほとんどが在庫なし。
もう、彼は過去の人になったのか、団塊は忘れ去られたのか。
あ~あ、昭和は遠くなりにけり・・・。

橋本治のようなリベラルに生きてきた人こそ
もっともっと活躍してほしかったと思っている。
ご冥福を祈ります。

また、氏の作品をこれから注目して読みたいと思っています。

毎年恒例、1月2日のありふれた過ごし方。

正月二日の朝6時半ごろ、家を出発して徒歩で天神の湯へ向う。
明け方の空を見上げると、月と金星のランデブーが可愛かった。

 

f:id:kittsan:20190103172446j:plain  


呉服町、伊勢丹前では、既に初売り目当ての人たちが並んでいる。
伝馬町から横田町へ旧東海道を東に。
ちょうどその頃日が差してくる。
1時間のウォーキングの後、天神の湯で朝風呂を楽しむ。

 

f:id:kittsan:20190103172632j:plain


人が少なくて、露天風呂やサウナを独り占め。
ゆっくり温泉でリラックスした後は、
東静岡駅近くのコメダ珈琲で朝食を。

 

f:id:kittsan:20190103172703j:plain


1時間滞在して、読みかけの長編小説「長い道」柏原兵蔵著を読む。
漫画「少年時代」&映画「少年時代」の原作だった。
そこから東静岡駅に向かいJRで静岡駅へ。
途中、東静岡駅の階上コンコースでFacebook用の写真を撮る。

 

f:id:kittsan:20190103172738j:plain


静岡駅から初売りバーゲンが始まった松坂屋へ。
おそらく一年で一番来場者が多く、売り上げも多いのだろう。
続いて伊勢丹の紳士服の階、バーゲン売り場で欲しいものを探す。
バーゲンになったパジャマ、財布、靴下が購入候補だが・・・。

 

どうしても今年買わなければというものではないし、
まだあるからモノを増やしたくないし・・・。
結局手ぶらで帰途へとなった。
私がモノを買わないのだから、あなたも同じ。
商売の家具が売れないのは理の当然と思う、私の行動。

 

f:id:kittsan:20190103174347j:plain

 

さて、一日に着いた年賀状の中で、こちらから送ってない方があるので
賀状を改めて印刷し、本局郵便局へ投函しに行く。
少しづつ減らしていきたい年賀状、ビジネス向けは本当に少なくなった。

 
夜は帰省した子供たちや、親戚の家族でささやかな新年会が楽しい。
いつまで続けられるか、いつまで同じメンバーの参加があるのか。
こうして二日目の正月が暮れていく。

 



今年のドラマ best3 (映画2本+TVドラマ1本)

今年観た映画は17本。

日本映画「光」大森立嗣監督
日本映画「花筐」大林宣彦監督
フィンランド映画希望のかなたアキ・カウリスマキ監督
アメリカ映画「スリー・ビルボードマーティン・マクドナー監督
日本映画「リバーズ・エッジ」行定 勲監督
アメリカ映画「シェイプ・オフ・ウォーター」ギレルモ・デル・トロ監督
アメリカ映画「ペンタゴン・ペーパーズ」スティーヴン・スピルバーグ監督
イタリア映画「君の名前で僕を呼んでルカ・グァダニーノ監督
ロシア映画「ラブレス」アンドレイ・ズビャギンツェフ監督
アメリカ映画「犬が島」ウェス・アンダーソン監督
日本映画「万引き家族是枝裕和監督
日本映画「パンク侍、切られて候」石井岳龍監督
日本映画「未来のミライ細田守監督
日本映画「きみの鳥はうたえる三宅唱監督
日本映画「寝ても覚めても」監督 濱口竜介
イスラエル映画運命は踊るサミュエル・マオズ監督
イギリス映画「ボヘミアン・ラプソディブライアン・シンガー監督


昨年に続き、傑作ぞろいの日本映画。
万引き家族」が頂点と思っていたら、その上があった。

f:id:kittsan:20181230205904j:plain

日本映画「寝ても覚めても

源氏物語から近松の心中もの、戦後の成瀬監督映画の諸作品に脈々と息づく、
恋の中に魔物が潜む人たちの物語。
その行動の不可解さ、理不尽さを、ホラー映画ばりのサスペンスで演出。
最後まで金縛りにあったようだった。

 

f:id:kittsan:20181230205949j:plain

外国映画では ロシア映画「ラブレス」

夫婦の離婚後のネグレクトを知った子供の失踪。
寒々としたロシアの冬のような夫婦の無感情、無関心が印象的。
その他人の子供を探すボランティアの人たちの呼ぶ声に僅かな愛が見えるが。

 

f:id:kittsan:20181230210421j:plain

番外TVドラマからの1本は おっさんずラブ

評判を知って途中から見た。
くだらない、ありえないと思いながらも最後まで見てしまった。

このドラマで面白かったのが、離婚を強要された妻がとった行動。
恋する部下の春田(田中圭)に振られて失意に沈む
上司の黒澤(吉田鋼太郎)を見かねた妻・蝶子(大塚寧々)が
こともあろうに離婚の原因となった春田に
再アタックするよう夫を応援するところ。
女々しい男性に対する、雄々しい女性像が新しい。

以上、愛を描いた3本のドラマ、大満足でした。