アニメで描く戦争ドキュメンタリー/映画「戦場でワルツを」

映画の興味を引くものとして、その内容(ストーリー)が大部分を占めていますが、

それを、どういう表現方法で描いているかも、大変重要な要素です。

この映画は、戦争の真実を、アニメーションドキュメンタリーという、

独特の手法で描き、世界中で絶賛された傑作です。



イスラエルの映画監督アリは、原因のわからない悪夢に悩まされている。

その原因を突き詰めるため、

青年時代に従軍した、レバノン戦争の戦友たちを尋ねる旅に出る。

ほとんど記憶から消えてしまった、戦争の姿が、

戦友たちの証言から、薄紙を剥がすように、浮かび上がってくる。

今も続く中東戦争は、複雑な民族関係があり、私たち日本人には理解が難しい。

しかし、そういう歴史的なことを知らなくても、

この映画は、戦争という、極限の人間の姿を、

普遍的なイメージで伝えることに、成功していると思う。

戦争の状況下では、人間は、殺人という使命を課された、ひとつの駒。

感情のない、ロボットにすぎないのだから、記憶がないのは当然だろう。

しかし、平和な状況に置かれると、無い記憶が徐々に蘇ってくる。

戦争の記憶を持たない私たちは、他国の戦争を映像を通してみる。

あまりの悲惨な姿に、目を閉ざし、忘れようとする。

その繰り返しだが、不安と、恐怖は、確実に蓄積されていく。

死と向かい合った人は、生きることの意味を、真剣に考えることが出来る。

そう言う経験のない人は、漠然とした不安のなかで生活している。

後者の私たちは、こういう映画を見て、頭を殴られるように、

忘れていた、生きる意味を問われるわけです。

「難民地区サブラ・シャーティラで起きた虐殺」を伝えるこの映画。

加害者側である、イスラエルのアリ監督の体験をもとに、製作されたそうです。

幻想的な映像と音楽を巧みに使って、戦争の真実の姿を、描き切っていると思います。