愛と狂気の真実/映画「母なる証明」
初日だというのに、10人もいないガラガラの映画館。
こんなに面白い映画を見過ごしてしまうなんて。
日本映画がつまらなくなったのは、日本の映画ファンに見る目がないからデスッ!!

母一人子一人、子供のまま成人したような息子と、子を溺愛する母親。
性に興味を持つ息子が、女子高校生殺人事件の犯人として逮捕されてしまう。
息子は否定するが、警察はいとも簡単に事件を片付けようとする。
弁護士もあてにならないと知った母は、ひとり物に取り付かれたように犯人捜しに奔走する。
韓国の鬼才、ポン・ジュノ監督の新作です。
あの、「殺人の追憶」「グエムルー漢江の怪物ー」と、土肝を抜く怪作が記憶に新しい。
本作も、愛情と狂気が引き起こす人間の闇の部分を描いた、見応え十分のミステリーです。
中盤まで、事件に翻弄される母や息子の姿、やる気のない警察や弁護士の行動を、
どこか面白くもてあそんで、ちゃかしたような視点で描いていきます。
しかし、こんないい加減な話の解決のままで終わると思いきや、
後半30分になって、理性とか良心が遠く及ばない、人間の真実の姿をあからさまにしていきます。
絶対の無実を信じる母が、目撃者の話の中に出てくる犯人の姿に、息子を思い描いてしまう怖さ。
真犯人と覚しき、息子とよく似た若者に言うセリフ「あんた、お母さんいるの?」の悲しさ。
エゴイズムが、忘れ去ろうとすることで、真実を覆い隠し、生き延びていきます。
そして映画は、誰にもわからない事件の解決のまま、踊りと音楽で終わりとなります。
余談ですが、このポン・ジュノ監督とクリント・イーストウッド監督の映画、
よほど対抗意識を刺激されるらしく、毎回同じ年に日本公開となっています。
そして、若手はいつも巨匠に頭を抑えられています。
特に今回は、同じ母物対決(チェンジリング×母なる証明)で、上位争いとなりましたが、
私は面白さ、新しさからいって、断然ジュノ監督の「母なる証明」に軍配を上げます。
2004年 1位 「ミスティックリバー」 イーストウッド監督
(キネマ旬報ベストテンより)